警察発表は霊媒の御託宣である

　俺様は，宮﨑勤に対する一審判決理由を読んで，痛切に感じたことは，捜査段階の取り調べが絶対的な権威を持って受け取られて，何の検証もなされない現実だった．７年間観察した結果よりも信頼性が高いとされた．　　　　　　　　　　　　　　　　今，正にこれと同じことが，神戸首斬り殺人事件でも起きている．断片的で，何ら我々には検証のしようがない警察発表が絶対の真実になってしまう．容疑者自身が，マイクやカメラの前に立って証言することはない．　　　　　　　　　　　　　　　　警察が要請した任意同行に応じた中学生は，その瞬間，文字通り『透明な存在』になってしまった．世俗から遠く離れた霊界にでも行ってしまった状態である．ただ，警察発表という霊界通信が，唯一彼の情報となる．　　　　　　　　　　　　　　　　容疑者の自供とされていることが，本当に彼自身の口から述べられたことなのか？警察発表とて，金ノコも金槌も『ほゞ凶器と断定』となる．『ほゞ』と『断定』が，何の違和感もなく共存しているあいまいさである．　　　　　　　　　　　　　　　　要するに『正式な鑑定の結果ではなく，ひっくり返る可能性もあるが，取り敢えず凶器として発表しておく』という程度の発表に過ぎない．それでも警察という霊媒の言葉は，民衆に絶対の真実と受け取められている．　　　　　　　　　　　　　　　　マスコミが，容疑者の中学生と同じ年齢の子や，その子を持つ親を集めて，騒ぎを大きくしている．今や，それが少年法改正への動きにまで発展している．マスコミの報道に踊れば，未成年者全体の首を絞めてしまう．　　　　　　　　　　　　　　　　結局，今のままでは，彼は透明なまま裁かれて世間から抹殺されてしまう．例えば裁判が行われたとしても，法廷は事実上，警察発表に加担したマスコミが占領する．人権が隠れ蓑になって，実況中継もされないのだ．　　　　　　　　　　　　　　　　マスコミは，中学生の口を通して，容疑者の中学生を裁かせる．もはや警察発表に疑いを持つ者はいない．そんな報道の繰り返しが，証拠の有無に関係なく，容疑者を完璧な真犯人に仕立て上げる．判事もこれに従う．　　　　　　　　　　　　　　　　所詮，この世は完璧な真理が実践される世界ではない．矛盾と混乱と過ちに満ちてそれが不思議な調和を生み出している世界である．真実が明らかではない段階での，こんな馬鹿騒ぎも，その意味では理の必然である．　　　　　　　　　　　　　　　　情報化社会とは言われながら，真犯人としての決め手を，実際に確認できる者は，ごく少数の警察関係者である．それが真実であると，一般の人間が確認出来る機会は一度もない．マスコミの間接的な情報に依存する．　　　　　　　　　　　　　　　　一度としてその真偽が問われることも詮議されることもない警察発表ではないか．ここまで容疑者を真犯人だと断定して，一般の中学生を巻き込んで論議を展開して，もし事実が根底から覆ったら，一体どうするのか？　　　　　　　　　　　　　　　　裁く権利のない者が，無実の者を徹底して裁いてしまう極めて危うい世界なのだ．マスコミは，すぐに過去を忘れて，本当に明らかになった事実に追随するだけだが，踊らされて裁きに加わった子供の心の傷は癒えぬ．　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊＊　悪魔　＊＊　　　　　　・目次に戻る