4月〜5月の喜多嶋隆

喜多嶋隆を読むために

 

空はおだやかに晴れ渡っている。雲ひとつない。風も無い。
この坂を登りきれば、鏡面のようになめらかな海が見えるはずだ。
一生懸命に、自転車のペダルをこぎ続ける。
うちからそこへは、県道をまっすぐ進み、小動の交差点を左折すればいい。
でも、わざわざ遠回りをして、きつい坂を上る。
坂のてっぺんで、お気に入りの海を眺める。
深呼吸をして、潮の香りを胸いっぱいに吸い込む。
そして、猛スピードでその坂を一気に下り、風を感じてそこに行く。
その本を読むために、そういう”わざわざ”をしたいのだ。
そういう価値のある本なのだから...

出掛けに鎌倉FMの波情報は、チェックした。
ひざ以上の波が、セットで入ってくることはないらしい。
もしかしたら、お気に入りの海は独り占めできるかもしれない。
波情報を読んでいるDJさんも、自分の情報が、
こういう使われ方をしているとは、よもや想像してはいまい。

砂浜に腰をおろし、本を読む。
本を読む合間に、時々刻々と変わる海や空を眺める。
贅沢な時間の過ごし方だと思う。

帰りも大抵は、友達のやっているお店に寄り道していく。
そいつはサーフィンをやりたいがために、将来を嘱望されていた
会社をすっぱりと辞め、海の見える高台に無国籍料理の店を
はじめたつわものだ。
今でもいい波がくれば店は奥さんにまかせっぱなし。
ボードに乗って20数年のロコサーファーだから、仕方ない。
2年前に盲腸で入院した時には、冬の海に長時間入っていて
おなかが冷えて、体調を崩して入院したらしいと
まことしやかな噂が流れたほどだ。
友人の作ったごちそうを食べるためにも、波情報は不可欠なのだ。
何時の間にか友人達が次々と集まってくる。
大いに語り、大いに食べて、飲んで、騒いで...

帰りはR134沿いに、夕暮れから夜の海を楽しんで
松波の交差点を右折する。
考えてみれば、これもかなり遠回りだ。

本を読み、その余韻を楽しむためにこれだけの事をさせる
作者は他にはいない。

これも喜多嶋隆のなせる業なのだろう。