長岡鉄男氏 逝く(2000.5.29)

※写真などが見つからずこの掲示は2003.11になってしまいました。

オーディオ評論家の長岡鉄男氏が2000年5月29日急逝されました。
享年74歳だそうです。
30日のMSNかYahooのニュース欄で知りました。当時、アップルの閉店後は私が後片付けをしながら、居合わせた人達といろいろな話題でおしゃべりをするのが常でしたが、その日は長岡鉄男氏の話になりました。

そして、その時に居合わせた、私よりひと回り以上若い人もけっして権威主義でない、また“おじょうず”もない長岡氏のオーディオ評論やレコード評論のことを良く知っていて驚いたものでした。

 長岡鉄男氏については他にいろいろな方が書いておられるので、わたしは控えまして、80年頃に長岡鉄男氏考案のとても面白い「マトリックス・スピーカー MX-1」を製作しましたので以下に紹介しておきます。

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長い間、いろいろな面白い楽しみ方を提供してくださった長岡鉄男氏の
御冥福を祈ります(合掌)

これが完成した「マトリックス・スピーカー MX-1」です。
中央上部は「右」、中央下部は「左」、右側は「右マイナス左」左側は「左マイナス右」の再生を受け持ちます。
それで録音された音場を正確に再現するというのですが...。
上に乗っているのは柳家小満んの会特製「今戸焼きの福助」。
組み立て後、接着剤の乾燥を待つMX-1
両側はJBL/L26デュケード
※家庭用なのでL100よりも低音が出やすく価格が安い。
L100の10万円に対しL26は7万5千円程度だったと思う。

写真を撮るため片付いているがいつもはL26のうえにコーラル製の安物スーパートゥィーターが乗る。

マトリックス・スピーカーの原理は新しいものではなく、実際にSONYからローコストのステレオ・ラジオという形ででたことがあるそうです。しかしラジオだけで終ってしまいましたので、本格的なスピーカー・システムとしてつくったらどうなるか、ということで長岡氏が考案・製作したのがMX-1なのでした。

中央が[L+R]、右のユニットが[R-L](Rchに対してLchの信号を逆相にしてミックスしたもの)、左のユニットが[L-R](Lchに対してRchの信号を逆相にしてミックスしたもの)。

これらの信号が耳に達したとすると、
右の耳で受け取る信号は (R-L)+(L+R)=2R  であり
左の耳で受け取る信号は (L-R)+(L+R)=2L  となる。

これはヘッドフォンで聞く音に近く、L、Rのセパレーションは極めて良い。しかもヘッドフォンと違うのはモノーラル信号が入ったときには中央のユニットからしか音が出ないので中央正面にバッチリ定位する。
左右に開いたユニットから出た信号は適当な距離で壁に反射して余韻、エコー、ホールトーンといった反射音源となり非常に良い雰囲気がでる。これを積極的に利用したものがマトリックス4チャンネルであり、このスピーカーMX-1はそれに良く似たところがあり、センターチャンネルを追加した5チャンネルということも出来る。

このMX-1の製作は週刊FM別冊「長岡鉄男のオリジナル・スピーカー工作45」(1980.10.20発行)に掲載された「LR一体アンサンブル型音の魔術師マトリックス・スピーカー MX-1」を実際に製作したものですが、エンクロージャーに使用した板はフォステクスから裁断済みの板をSetで販売しておりましたのでそれを購入使用しました。

ヒヤリングは、記事を引用すると
「実に拡がりがあり、しかも当然のことながら中抜けがない。また、余韻やホール・トーンが二倍ぐらいにふえて聴こえる。拡がり方はソースによって違うが、幅1mぐらいにしか聴こえないものもあるが、3mぐらいに聴こえるもの、無限大、サラウンドに聴こえるものさえある。意外と良いのがカリオペなどのワンポイント録音のソースである。冨田勲のシンセサイザー・ミュージックもよい。とにかく文章では説明できない。まさに音の魔術師である。」(原文のまま)

と書いて有りました。実際に不思議なスピーカーで、レコードによってステレオ感の違う聞こえ方をしました。また、その後の記事で高性能アンプでないと拡がりが出ないともいわれました。
実際は一人用で正面に座って顔の高さで聞くものでSPシステムの幅もそれを想定してのものですが、面白いのは遠くに離れていても拡がりのあるステレオに聴こえたりしたことです。下の写真のように中央に置いてあるMX-1ですが普段はSP用の黒いネット生地がテーブルクロスのようにかけてあります。
友人が来た時などMX-1を鳴らしておいて、部屋に入ってくると左右のSPから音が出てると私自身錯覚してしまうのですが、友人はまったく疑いません。ところがネットをはずして「これだよ」というとあら不思議。突然拡がりをなくしたMX-1がそこにあって、もはや中央からしか音は聞こえないのでした。

そして、私のプリメインYAMAHA・CA1000Uではあまり拡がらなかった(拡がっても左右同じ音が拡がって聴こえたりした)MX-1ですが、ウチワのようなものを顔の前にかざしMX-1が見えないようにすると、あら不思議ちゃんとステレオに聴こえたりしました。(逆)視覚効果というものでしょうか。これにはみんなビックリで、笑っちゃうけどホントです。長岡氏に聞かれるとおこられてしまうかもしれませんが、ほんとだってば!

こんな楽しい本がありました。
MX-1も掲載
裏表紙はFOSTEXの広告。
定価750円


この合板を更に重ねるというプレイヤー・ベースも長岡氏の推奨する方法なので紹介。
手前に見えるターンテーブルはSONY・TTS3000.直流モーターをアンプで制御してベルト駆動で約2Kgのターンテーブルを回す。約半周で定回転に達するので頭出しに便利。
当初、下方に見えるごとく音楽の友社製のプレーヤーケースに取り付けてあった。
25o厚の合板2枚を接着剤と江川製作所特製の真鍮製ボルト・ナットで締め上げる。
くり抜き部分が大きいので、シッカリしたわりに軽く出来たと思ったらターンテーブルやインシュレーター(たしかオーディオ・テクニカ製)のせいでやっぱり重量級に。

SONY・TTS3000は
当時主流はヒステリシス・シンクロナス・モーター(交流のパルスに同調して回転する)によるダイレクト・ドライブであったが、交流のパルスが必ずしも一定でないというSONY独自の考え方で作られた電流電圧を一定に保つアンプ制御の直流モーター&ベルト・ドライブ。
トーンアームはマイクロのダイナミック・バランス・アーム。
カートリッジは(たぶん)オルトフォンのMC20かVMS20.

概ねありのままの80年代店長自室。(ホントはもっときたない)
SPの足にご注意。L26の足はヤマハ製。

マトリックスSPの足はハギレ板を重ねて太い一本足にしたかったが長岡氏の板の裁断は巧妙であまりムダがでないので徐々にあきらめました。

呼ぶと歩いてきそうなMX-1(カワイイ!)
これも長岡鉄男氏考案の20pフルレンジを使ったクラシック用バックロード・ホーン。下の写真「stereo79/6」誌に掲載。20o合板3枚で製作するのですがムダがまったく出ないという巧妙な設計。
バイクの項でも登場のECHO氏
プレーヤー用の特製ビスやSP製作用の頭をツブした釘など金物物資は彼が提供してくれる。
ちなみに江川製作所は彼の実家。
左の
「stereo79/6」誌に掲載の「新設計クラシック向きバックロードホーン
“DYNALOAD6”」
を製作したものです。
右の本は
FOSTEXが76年に発行した自作SPの本で巻頭文を長岡氏が書いています。
SPユニットや文献の紹介は他社のものもちゃんと載せている。太っ腹!。
懐かしいヒトにはとても懐かしい(と思う)FOSTEX
ネットワーク回路と減衰量別L・C値 スライド・ルール」(左)
左側の白く見える窓で、クロスオーバー周波数とSPのインピーダンスを合わせると、その右側の小窓にコイル、コンデンサの必要値がそれぞれ減衰量別に表示されます。
右の写真は裏面で
左端が固定形アッテネータの減衰量に対するR1、R2の値。右側のスケールはSPBOXの内容量Lと高さを合わせると下(中央より)のスケールが横と奥行きの寸法を表示。
 当時、自作SPでフルレンジ20pというとFOSTEXのFE-203が定番でありましたが、このシステムはコーラル製の新製品8A-70で作られておりました。8A-70はヘアライン仕上げダイキャスト・フレーム、メタルキャップ付というJBL・LE8Tにチョット似たカッコよさで作ってみたくなりました。
実際には、本にも推薦されていたとおり上部にドーム型トゥイーター(FT-30D)をコンデンサー(岡谷のVコン)のみで追加した2WAYのシステムにしました。位置はバッフルから若干後退させたリニアフェイズ(L26のスーパー・トゥイーターもリニアフェイズに調整してあります)。
この稿を書くにあたって1979年6月号の「stereo」誌を懐かしく見ておりますと、2003年11月現在のアップルで、店内の音響を受け持っているビクターのA-X5プリメイン・アンプが新製品として広告掲載されていました。ビックリ。

下はオマケで、80年当時は店長にも髪の毛が有ったと言う証拠写真!です。
江川製作所裏庭でジグソーで板を切る。


「件名」は具体的に

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