貿易ゲーム (実施:2001、2002年度)
厚紙で円や三角形、四角形をつくって生産高を競うというシミュレーションゲームを通じて、経済的に貧しい国、豊かな国のそれぞれの立場で悔しさや怒り、優越感や喜びといった感情を経験します。豊かな国はますます豊かに、貧しい国はますます貧しくなって行くのはなぜかを、考えさせます。また、持てる国、持たざる国という格差を個人のレベルにおろして考えてみることも試みます。たまたま家が金持ちだったり、身体的に健康であったり、運動能力が優れている、または数学的な能力に優れている、対人関係が上手、言葉が話せる、障害をもっていない、といったことで、そうでない人を軽んじたり、自分が偉いような錯覚におちいっていないでしょうか。自分がその立場に立ってみないと、そこにおかれている人々の気持ちというのはわからないので、どうしてもそうした人々の気持ちに無神経になってしまうことに気づいてもらえればと思います。
この授業で貿易ゲームをとりあげるもう一つの目的は、心理学という学問についての知識を広げてもらうことです。心理学は、臨床心理学のようなミクロなレベルだけでなく、社会心理学のようなマクロなレベルで人間を見ようという分野もあるということを知ってもらいたいと思います。
<授業のサイズ>2コマ×1日
人数の配分&準備するもの
| A 発展途上国(4人) |
ザラ紙 5枚 エンピツ1本 100円 紙幣10枚
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| B 発展途上国(4人) |
ザラ紙 5枚 エンピツ1本 100円 紙幣10枚
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| C 中進国(4人) |
ザラ紙10枚 エンピツ1本 分度器1枚 定規1枚 シール1シート 100円紙幣30枚
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| D 中進国(4人) |
ザラ紙10枚 エンピツ1本 分度器1枚 定規1枚 シール1シート100円紙幣30枚
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| E 先進国(4人) |
ザラ紙1枚 ハサミ1本 エンピツ1本 コンパス1個 三角定規1枚分度器1枚 定規1枚 100円紙幣50枚 |
| F 先進国(4人) |
ザラ紙1枚 ハサミ1本 エンピツ1本 コンパス1個 三角定規1枚 分度器1枚 定規1枚 100円紙幣50枚 |
| 世界銀行(2人) |
集計用紙(1国につき1枚)、製品見本、電卓 |
タイムテーブル
| 00 |
今日はゲームをやることを説明
グループ分けのためのくじ引き
受講者のうち、2から3人は世界銀行役になるようくじをつくっておく。 |
| 10 |
グループで国名を決め、画用紙で国旗を作る。
作った国旗は机を合わせた真ん中にポップスタンドで立てておく。 |
| 20 |
ゲームのルールの説明
「@自分の筆記用具やノート、なぜか机の上に出ている、教科書類、マンガ、雑誌はすべてあまっている机においてください。自分が座っている机の上にはいっさいなにも置かないで下さい。何ももたないでください。
A各グループ、つまりそれぞれの国の目的は与えられたものをつかってできるだけ多くの富を築くことです。富というのはようするにお金です。
B富は製品を生産することによってつくられます。
C製品の形とサイズは、見本図に示されたとおりです。
D各製品は見本図に示されている価値をもっています。
E製品を世界銀行にもっていくと、品質が点検されたうえで、その金額がグループの口座に振り込まれます。
F製品は好きなだけ生産できます。時間は約30分です。
G次の点に注意すること。配られた袋の中のものしか使えません。世界銀行に持って行く製品はすべて正確なサイズで、ハサミを使ってきちんと切られていなければ製品として認められません。
H世界銀行は、ゲーム前とゲーム後の各グループの富を記録します。グループが製品をもってきたら、用紙の該当する欄に製品の金額を記入します。ハサミを使わずに切ったものや、サイズに狂いがあるものは受け取ってはなりません。」
グループの代表者に封筒を取りに来させる |
| 30 |
ゲームスタート |
| 40 |
様子を見ながら、途中で製品の価格を急に変えることを宣言する。
シールを貼ると製品の値段が3倍になることをあるグループだけに伝える。 |
| 60 |
ゲーム終了
富の集計 |
| 70 |
順位の発表 |
| 80 |
感想を書く(特に感想は、ゲームをやっているときの自分の心の動きに注目して書く) |
| 90 |
感想を全員で話し合う |
| 100 |
振り返り、講師のコメント |
授業をやってみて
生徒達も熱中してゲームに取り組んでいました。道具がなくてすることがないグループの生徒たちは、ぼーっとしていたり、だんだんやる気がなくなってきたりしていましたが、こうした状態もゲームの内です。同盟を申し入れたりなど、こちらが思ってもいなかった動きをしていたのには驚きました。
ただゲームに熱中するあまり、最後の感想を書いたり話し合ったりする時間が短くなってしまいました。これでは意味がありません。最初の方を段取りよくして、振り返りの時間をたくさんとった方が良いと思います。また興奮して本当にけったりしていた生徒もいたので、生徒同士の関係がゲームの後で悪くならないようにフォローすることも大事だと思いました。生徒の感想を読んでいると、中には「貧乏国はつらい」とか「だんだんやる気がなくなってきた」といったものもみられますが、ゲームの勝ち負けにこだわったものが多く、本来の目的である、「置かれた立場によっての気持ちの違い」といってものまでは至っていないようです。これはひとえに私のファシリテーターとしての力量不足の結果といえます。
<おまけ 授業雑想>
言わずとしれた、知る人ぞ知る、貿易ゲームです。最近は企業教育の中でも盛んに使われている手法です。もともとはイギリスの開発教育教材として考案されたプログラムで、社会科教育の関係者の間では10年以上前から知られているゲームです。
私がこのゲームを知ったのは、大学在学中、教職課程を履修していた同級生からの話です。私は当時教職課程をとっていませんでしたが、その同級生は社会科の教員免許を取るため履修していた、公民か地理だかの授業の中でこのゲームを体験し、「今日、すごいおもしろいゲームをやったよ」とその人は私に話してくれたのです。それから10年あまり、私のあたまの片隅に「貿易ゲーム」をいつかやってみたい、という思いがずーっと残っていました。
そして「心理学入門という授業を担当することになり、少々こじつけなのですが、授業でこのゲームをやることにしました。心理学とは違うといわれればそうなんですが、ゲームをやっているなかでいろいろな感情がわき起こってくるし、置かれている状況によって(自分本来の能力とか人格とかにかかわらず)優越感や劣等感を持つといった経験をする、といった点で、グループダイナミクスの授業ともいえなくはないな、と思います。
本来は「こういうことを実現するために、こういう手段を用いる」ということが授業を創る上で鉄則なのですが、「この手法を試してみたい」が先で「目的は後付け」ということで今回は反則です。
このゲームは定規類や鉛筆などを用意して封筒に詰めたりなど、準備にすこし手間とお金がかかりますが、それを差し引いても面白く、実になるプログラムです。お金がかかると言っても、最近は100円ショップで何でもあるので、私も道具(コンパスも!)はそこで買いました。でも100円ショップで売っているこれらの道具は、どこの国で、どんな人たちが作ったんでしょう・・・なんてことを考えるのも、「貿易ゲーム」の一貫なのかもしれませんね。
<参考書>
大津和子 1992 『国際理解---地球市民を育てる授業と構想』 国土社 ←貿易ゲームのやり方が詳しく載っています。
広瀬幸雄 1997 『シミュレーション世界の社会心理学』 ナカニシヤ出版 ←貿易ゲームによく似た、もっと複雑で本格的なシミュレーションゲームによって社会心理現象を読み解いていこうという、社会心理学の学術書です。
<生徒配布資料>
次の週、生徒に先週のゲームの流れの概要をおもしろおかしくまとめたものを配り、ゲームを思い出しながらフリ返りをしました。