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ビールの友008
猫が思い出すとき
1996.09.06

 今日(1996.09.05)は猫日和だった。帰りにずいぶんと猫を見た。もしかしたら、久々に早く帰ってきたから猫が出ていただけかもしれないけど。

 最初は仕事場近くのお寺の境内でスフィンクス座りをする3匹の猫。

 うちの近くでは、道のまん中でこっちをにらみつけている猫。なんなんだ、こいつは。「オッス」と声をかけたが、ひたすらにらまれた。それも頭を低く下げて、下から(もちろん道路にいるんだから下からなんですけど)ガン付け。脇を通り過ぎるときも首だけ回して目を離さない。通り過ぎてから振り返ってみると、まだこっちをにらんでいる。なんなんだよー、ホントに、オメーはよォ。

 次に出会ったのは、アパートの隣にある公園にたむろしている猫。こちらはなにかを一心に見上げている。何を見ているのかと視線をたどったら、そこは塀の上で、別の猫がいた。この猫がまた別の方向を一心に見ている。その先をたどるとまた別の猫が…というわけにはいかなかった。この猫は何を見ていたのかわかんない。

 アパートにたどり着いても油断はできない。ドアの前に猫がいて、僕を見るなりごろんと腹を上に向けて寝ころんだ。アソボーの合図である。

 この猫、去年はほとんど毎日うちに餌をねだりにやってきていたが、そのうちに来なくなった。

 それが、どうしたわけか、つい1週間ほど前から再びよく姿を見せるようになった。

 うちに来なくなったきっかけは、僕が猫の足を踏んだからである。別にわざとじゃないんだけど、足下にまとわりついているときに、よく下を見ないで足を踏み出したら、そこに猫の足があったのであった。ものすごい声で向こうに逃げていき、しばらく階段の下から疑い深そうな目でこちらを見上げていた。謝って近づこうとしたら、向こうへ逃げていく。以来、姿を見せなくなった。謝ったのに、ひどい奴だ。

 それにしても、また姿を見せるようになったとたん、いきなり昔通りごろんと寝ころんで遊んでくれのポーズである。あれだけ恨めしそうな顔をして逃げていったのに、完全に足を踏まれたことを忘れている。どういう性格なんだ、こいつは。

 もっとも、僕も人のことは(猫だけど)いえない。

 僕は、2年ばかり何もしないで過ごしていた時期があった。だいたい昼頃起き出して、まずは古本屋を一通り回って、食い物屋に入って飯を食いながらその日の獲物を読む。飯もコーヒーも終わったら、公園かグラウンドまで行って、本の続きを読むという、誠に優雅な日々。

 冬場は寒いので、さすがにグラウンドには行かない。でも、暖かい季節にはよくグラウンドで本を読んだ。公園で読むときにはベンチしかないが、グラウンドなら芝生の上に座って読めるし、疲れたときにはそのまま横になって昼寝ができたのでお気に入りだった。

 グラウンドには犬を散歩に連れにきている人や、夏休みには近くの高校や中学の陸上部も練習にきていたりして、なかなかにぎやか。

 犬の人は、よく犬同士や飼い主同士でおしゃべりが盛んなのであった。合間に犬を触らせてもらったりなんかする。なかなか楽しい。昼過ぎだし、平日だし、仕事はしなくていいし、すごく平和である。犬と遊ぶのも、本を読むのにも飽きると、そのまま芝生の上に横になってお昼寝。

 もー、昼寝は大好き! うだうだ、だらだらの頂点と申せましょう。プレッシャーと呼べるものが何もなく、ほんとーになーんもなく、ひたすら惰眠をむさぼるというのはものすごい快感です。「ああ、俺はこのために生まれてきたんだ」という実感が、ひしひしと……。

 うーむ、まるで反社会人だなぁ。

 先日、ひさびさにお休みだったので、近くで朝食兼昼食をすませ、公園のベンチで本を読んだ。天気はいいし、暑すぎず寒すぎず、風も気持ちいい。ゲートボールを打つカチンコチンという音や、親子でキャッチボールをする音がする。犬はバフバフやらキャンキャンやら吠えている。

 こういう時はどんどん眠くなる。

 いい気持ちだな〜。そういえば、なんで公園で本を読むのを止めたんだっけ? いつのまにかやらなくなってたな〜。あ〜いい気持ちだな〜フニャフニャ。

 そのまま寝ちゃったわけですけど、なぜ公園で本を読まなくなったのか、もっと真剣に考えればよかった。

 目が覚めたとき、僕は手足に8個所も蚊に喰われていたのである。

 ここらの蚊は薮蚊のような軟弱なやつではない。すぐ近くを玉川上水が流れているせいか、成長がいい。手足が恐ろしく長い、マラリアだろうが黄熱病だろうが、俺はなんでも持ってるぜって感じの強力な奴なのである。そのかゆさは尋常ではない。一つの噛み跡が直径5センチくらいにプックリと腫れ上がる。腕はまくっていたので比較的広範囲にちらばっていたが、足の方は素足に靴を履いていたため、喰われたのは足首の回りに集中している。腫れ上がったところが重なっていたりして、それを見るだけでかゆさ倍増である。

 そーだった。これのおかげで公園で本を読むのを止めたんだった。今さら思い出しても手遅れだ。
 あの猫は一体いつ足を踏まれたことを思い出すだろう? きっとまた踏まれるまで思い出さないんだろうな。


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