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2005/3/7
カメラというのは道具である。道具にはそれに見合ったスタイリングというものがある。どーだ、偉そうだろう、えっへん。
それもそのはず。故佐貫亦男先生の「飛行機のスタイリング(グリーンアロー出版/本体価格2,330円)」と「ドイツカメラのスタイリング(グリーンアロー出版/本体価格1,456円)」を読んだところなのだ。これだけで今までよりも3cmくらい僕は偉くなった。つーことでデジタルカメラのスタイリングの話である。
道具は、その目的にあった機能を果たさなくてはいけない。それだけではダメで、機能を果たしながら全体との調和がなくてはならず、さらに目的を視覚的に表していなくてはならない。合理的に機能を果たした上でアイデンティティが見えなくてはならぬ。この考えを表す言葉として「スタイリング」ということらしい。
なお、佐貫先生はこんな風には言っていない。前述の定義は、読んでいて、どうもこういうことらしいなと僕が思っただけである。
ご自身の言葉ではこんなことをおっしゃっている。「(スピットファイアは)姿が美しくてメッサーシュミットBf109を圧倒した。いいかえると、操縦者は自分の勇ましさに陶酔して、戦わないうちから気分は高揚していた。スタイリングの魔力はここにある(P97)。」
「スタイリングは単なるカッコよさではない。パイロットに"おれはいまよい機体に乗っているぞ"と、精神を高揚させる意味を持つのだ。(P83)」
「私は強調する。すぐれた飛行機のスタイリングは搭乗者の精神を高揚させ、運用者の自信を確保すると(P254あとがき)。」
「私はスタイリングを単なる意匠とせず、人間の精神を奮い立たせる動機と考える(P27)。」
何しろ技術者先生なので、僕が「これカッコイイじゃん」という機体も、「ここで台無しになっている」など細部にまでこだわって手厳しい。逆に先生がほめている二式大艇なんかは僕には鈍くさく見える(平面形や側面形はそれほどでもないのだが)。僕にはなんでもなく見える機体を、これだけのものをなんでもなく見せているところがすごいと、たいそう感激されたりしている。このあたりは技術者でないとわかりかねる。
こんな風に、先生と僕の感覚はちょっとずれている。よって、以下使っている「スタイリング」という言葉は、あくまで僕の感覚において、ということなので、まずは長いお断りなのだ。だんだん口調も佐貫先生っぽくなってきたのでとっとと本題に行こう。
現在のコンパクトタイプデジタルカメラをざっと眺めると、軒並みスタイリッシュで都会的である。判で押したようなとはこのことだ。差別化しようとスタイリッシュにして、回り中がスタイリッシュなためにかえって差別化になっていないというように見える。それに、都会的でスタイリッシュなのは、それはそれでいいんだけど、どうしても道具っぽくなってしまい、機械としての魅力がない。金属ボディでありながら高級感がないのも困りものだ。なぜなんだろう。
あの安っぽいボタンの洪水に原因があると僕は思う。なぜあんなにたくさんのボタンが必要なんだろう。
デジタルだろうが銀塩だろうがカメラはカメラである。まずは写真を撮る、という機能を果たさなくてはならない。その上でプラスαの機能が付く。さて、ここが問題だ(おお、まさに佐貫先生みたいな文体だ)。
撮る機能だけなら液晶は必要ない。見る機能が付いているから液晶が必要となる。モード(シーン)ダイヤル、メニューボタン、セレクトボタン、OKボタン、削除ボタン、マクロボタン、電源ボタン、シャッターボタンetcとボタンの洪水になってしまうのも、便利な機能を追加したためである。
ここに大きな分岐点が一つあると思うのだが、銀塩でもコンパクト機種にはいろんな機能を盛り込むという伝統(?)があったためか、あっさりと機能追加肯定に流れてしまっている。撮ることだけに徹したコンパクトデジタルカメラは現行品に存在しない。
ちょっと前には単に撮るだけのデジタルカメラが存在したが、それは低価格化のために機能を削った結果であって、断じて機能を追求した結果ではない。佐貫先生風にいえば、消極的な結果であって、積極的な結果ではない。後ろ向きだからスタイリングも前向きなものがなく、なんとなくさえない。これでは撮る人の気分もさえまい、写欲がなくなる、となる。スタイリングは使う側の気分を盛り上げるものがなくてはならぬ。構えた時から、「おお、これはいいものが撮れるぞ」と思えるものでなくてはそのスタイリングは失敗だ。
機能をテンコ盛りにしたおかげで、簡単に撮れるはずのコンパクトデジタルカメラは、小さい体にボタンだらけという苦しさを抱え、操作系は複雑怪奇になってしまった。簡単なはずが逆に難しくなっちゃった。もはや開発コンセプトもへったくれもない。本末転倒状態にある。これはもうスタイリング以前の話である。
これをなんとかしないとスタイリングにまで達することができない。突破するにはまずボタンの数を減らすところから出発する必要があるだろう。当然機能を減らすことになる。ではどの機能を減らすか、突き詰めていうと最初に戻る。カメラに必要な機能は何か?
デジカメはいろんなことができて便利だけど、できるということと必要ということはイコールではない。オートホワイトバランスは本当に必要なんだろうか。撮影シーンダイヤルは本当に必要なんだろうか。液晶は本当に必要なんだろうか。
他社がどうの競争に負けるのがどうの、メーカーの論理はいい加減うんざりだ。写真を撮る論理をしっかりしろといいたい。思い切って「写真を撮るのに必要なものは何か」だけにしぼったらいい。シャッターボタンと光学ファインダー、絞りとシャッタースピードだけになる。最近の流行は絞り優先だから、絞りダイヤル一つでもかまわない。露出補正はボタンでもいいが、ISO設定ダイヤルにしてもいい。必要ならISO設定そのものを変更すればよい。後はホワイトバランスのDAYとオートの切り替えくらいか。このスイッチは普段は隠しておいてもいい。
動画撮影機能はもちろん、見る機能も本体からすっぱり無くす。どうしてもというなら、付属のプラスチックケースに液晶とバッテリーをつけてやればいい。カメラ本体をカチンをはめ込むとビューアになる。もちろんこのケースは生活防水だ。ケースレスカメラだから…というのであればもっとはっきり別売りビューアパネルにしちゃえばいい。ついでにHDも積んでデータ吸い上げ機能があれば文句はなかろう。
機能も十分、コンセプトもはっきりした、実にスタイリング満点のデジタルカメラができあがる。
だが、デジタルカメラはデジタルカメラなので、銀塩に戻る必要はない。そこのところは注意が必要だ。たとえばエプソンのR-D1は、道具としての魅力を銀塩の操作系に求めた、いわば銀塩復古カメラであって、デジタルカメラを突き詰めたものではない。それはそれで別の道だ。
そうそう。飛行機にはでてこないが、カメラの場合、手触りとか質感というのもスタイリングの大事な要素だ。それで思い出すのはオリンパスXAだ。プラスチックでありながらどこか金属っぽい質感を持ち、手触りも悪くなかった。
世界初のカプセルタイプデザインが表現しているコンセプト、すなわち「コンパクトなんだからさー、もっと気軽に持ち歩いてシャッター切ろうよ」という提案はたちまち受け入れられた。各社がカプセルタイプ、またはレンズカバータイプを続々発売し、デジカメでも採り入れられている。佐貫先生にお伺いするまでもなく、間違いなく満点のスタイリングだ。
最期に佐貫先生にならって実際のデジタルカメラのスタイリングについてちょっと書いてみる。
僕が感心したのは、なんといってもコニカミノルタのDiMAGE X(ディマージュ)である。これはレンズを縦に内蔵し、フルタイムフラットを実現した。簡単にいえば鏡で光を反射させ、90度下に折り曲げてからレンズを通って底部のCCDに達するというものである。35mmフィルムでこれをやると、底部の厚みは35mm(35mmフィルムの幅)以上は確実に必要になり、巻き上げ・巻き戻し機構を考えるとえらいことになる。これはデジタルカメラでなくては実現できなかった。また銀塩でやるメリットもない。
ズームしてもレンズが飛び出ないのは、操作系としても優れている。これを考えた人はえらいと思う。他のカード型とはひと味違うぞ、という雰囲気を持っていて、見たとたんに「ん?なんだこのフォルムは」となる。スタイリングとしても一応成功している。惜しむらくは風格がない。気軽さということにつながるから、これはこれでいいのか。
この方式は光学折り曲げ式と呼ばれ、他社でも同様の機構を持つ物(例:Sony サイバーショットDSC-T1、オリンパスCAMEDIA AZ-1など)が登場した。今後もデジカメの一つの形態として続いていくことだろう。
デジタルカメラの薄型化で成功しているもう一つの機構は、スライド式レンズ収納である。レンズ郡の一部を脇に避けて収納することで収納時の薄型化を狙ったものだ。こちらはペンタックス、カシオ、リコーを始め数社が行っている。ペンタックスのオプティオSが最初だったように思うが、違うかもしれない。
何しろ光学系の一部をいったん脇にどかせるのである。光軸が狂わないようにするためには、何度やってもぴたりと同じ位置に戻る精度が必要だ。かなり勇気のいることだと思うけれど、現代の技術からすればさほどのことはないんじゃないかとも思う。こちらの方式は35mmでもたぶん実現できることなので、それほど感心はしなかった。デザインも「ここが変わったぞ」という顔をしていなくて、従来のデジカメの延長にある。
カシオが透過性セラミックスレンズを使ってズームレンズユニットを薄型にしたEX-S100を出した。技術的にはたぶんすごいことなんだろう。ただし、フツーのカード型デジカメの顔をしているから、いわれないとスライド式レンズと勘違いしてしまう。その点でスタイリングとしては評価が低い。
僕のたわけた批評はともかく、道具というもののスタイリングを考えるにあたって、特に「飛行機のスタイリング」は読んだ方がよい(こちらの方がスタイリングという考え方が判りやすい)。大変面白かった。
スタイリングがよいからといって名機かというと、それは必ずしも成り立たない、という点にも十分注意が必要だろう。
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