レポート「児童虐待とその心的後遺症」
10/5(日)第8回日本嗜癖行動学会 公開シンポジウム(1997)
●出席者
- ジュディス.L.ハーマン M.D
- ベッセル.ヴァン.デア.コーク M.D
- 西尾和美 Ph.D
- 司会者:斎藤学 M.D.
●スケジュール
- 10:00〜12:30 ヴァン.デア.コーク M.D の発表
- 13:20〜15:40 ジュディス.L.ハーマン M.D の発表
- 16:00〜16:30 西尾和美 Ph.Dの簡単な話と、先の二人と観衆との質疑応答
初めのコークさんの発表ですが、これはとても刺激的な発表でした。
類人猿を使った動物実験ですと、ネグレクトした個体は、体をゆすったりして落ち着きがなかったとの事です。
それから、ここからが重要なのですが、ネグレクトの環境で育った子どもは、体を揺すったりして落ち着きがないという事、ADHDとの関連、その子の心は自己否定感を根強く抱いてしまうという事、その状態から抜け出せない事、でした。
そしてこころの在り方は「心に穴が空いた感じ」のような空虚感に支配されている、というように理解しました。
一番の目玉はPTSDの状態の方が、症状が発動されている状態時の、脳の輪切り撮影装置(CTみたいな奴ですね。PETと言ったかと思います)で得られた脳の活動分布を、健常者にも同じ画像撮影を行った映像と比較した時の、脳の活動分布の明らかな相違です。
脳生理学から見たPTSDの影響についてですが、右脳(右半球と言うそうです)は感情を司る部分、左脳(左半球)が思考・知性を司る部分で、フラッシュバックが起こっている時は、右脳のある部分(名前は憶えきれませんでした)が活発化し、左脳の前頭葉の思考をする部分と、言語を司る部分の活動が低下していた事を示す、脳の断層写真を見せていただきました。
そして、右脳の活発化する部分は、マフラーとして抑制する部分の機能が働かない為に、常にダイレクトに活発化をするとの説明でした。
更に、健常者とPTSD患者の方の二人に「嫌悪感をもよおす音」を何度も聞かせた時の写真も見せていただきましたが、健常者は初めは嫌がるのですが、何度も聞くと、次第に慣れて行くとの事で、断層写真でも、両方の脳が活発化していました。
しかし、PTSD患者の方の方は、何度聞いても感情的になって嫌がり、反応は常に同じだった、との事です。
この事から、脳生理学から見た現象として、PTSDの方の脳の活動変化がとりえず実証されたと思われます。
しかし、この断層写真を撮るにはお金がかかるとの事で、もしかしたら、貴重な研究レポートだったのではないかと思われます。
EMDR(眼球運動による脱感作および再処理)についての話もあり、当初はそんなに期待していなかった治療法だったが、「なんで効果があるのか不可解で分からないが」という前置きで、PTSD(DSM-III-R,IVで診断された方々と理解した方が無難でしょう)の治療には予想以上の効果が上がっているとの事でした。
その後のコークさんの発表が終わった後と、ハーマンさんの発表の後に質問しました。
〜1回目〜
Q・虐待とネグレクトの関係はどういうものか?
A(Kolk)・研究が進むにつれて虐待・traumaの背景にneglectがある事を見いだ
している。虐待の後ろにneglectがあると考えている
〜2回目〜
Q・(岡野憲一郎さんの概念用語「陽性外傷」と「陰性外傷」の事を述べた上で)Kolkさん
が言われたように、虐待の背景にはneglect=陰性外傷があると思われるか?
A(Herman)・Kolkさんと同じ意見です
Q・「neglect=陰性外傷」単体と、複雑性PTSDはどう結ぶ付くか?
A(Herman)・neglectだけでは複雑性PTSDとはならない
そのお答えに僕が「実感としてはneglectは複雑性PTSDに含まれると感じます」と返すと、Kolkさんが即座に介入して、
A(Kolk)・「neglect(の影響)は"とてもタチが悪く、やっかい"である」
以上の内容の文責は私 (Masayuki Kogure)にあります
作成日 1997/11/22(Sat)