第3章 「児童虐待」〜家庭という強制収容所〜



  すでに第1章で、境界性パーソナリティ障害(BPD)や境界例(ボーダーライン)と児童虐待の関係を、第2章でPTSDの視点から児童虐待を見る必要を述べました。
  ここでは、具体的に幼児・児童虐待について述べます。



 幼児・児童虐待とは文字通りに子どもを虐待する事で、それが慢性的・恒常的に行われている状態を言います。そしてそれは、目に見える形での暴力に限りません


 主に次のような種類に分ける事が出来ると思います。

1・身体的虐待・・・肉体的な苦痛を与える行為
  体を叩くなどの暴力、逆さ吊りにする・溺れさせる・布団蒸しにする等の体に苦
 痛や傷を与えるものです。時には命が奪われるケースがあります。
2・情緒的虐待・・・精神的な苦痛を与える行為
  絶えず言葉で馬鹿にする・否定する・怒鳴る・叱るなどで 子どもを積極的に否定し
 て 子どもの心に深い悲しみや脅え、辛さ等の苦痛を与える事です。
3・性的虐待・・・性的な関与
  養育者や身近な人が、 子どもに性的な接触や行為をしたり、 子どもに性的な行為
 を要求する事で、レイプに至る場合も含めます。
  児童ポルノ産業もこれと密接に関わっている事は否定できません。


  これらの虐待の他に、養育の拒否・怠慢があります。
  これは、 子どもが生きていくための身の回りの世話を放棄して、突き放す事です。

4・身体的放置
   子どもの健康と発達と保護、最低限の衣食住の世話などを放棄する事です。
5・情緒的放置
  情緒的な拒絶・突き放し、無関心等、 子どもとの情緒的な関わりを放棄する事です
  パチンコに熱中して 子どもをかまわない親の姿、といえば良い例えかもしれません


引用・参考文献:『 子どもの愛し方がわからない親たち』 斎藤学/著 講談社



 特に(3)の性的虐待については、米国の文献の邦訳を読むと父親(男性の近親者)が女児を標的にするケースが主に見られ、それと米国の境界性パーソナリティ障害(BPD)の患者の多くが女性である事との関連性がよく指摘されています。

 日本の場合も、この「父親(近親者)と女児(注:よく「近親相姦」と言われるが、一方的であるので正確には「近親姦」と呼ばれる)」というケースはとても見逃せない存在ですが、「母親と男児」という組み合わせの関係(母子癒着)も多く見られるようです。

 この場合、母親が暴力を使って男児に性的な関与をする訳ではないのですが、男児の意志に関係なく情緒的に包み込む形で 子どもの自立性を阻害している状態が、広い意味での「情緒的虐待」と考える事ができるのではないかと思われます。

 更に、場合によっては息子の性的欲求の発散の処理も手伝う状態にまで発展するケースもあり、このようになると、「マイルドな性的虐待」にまで発展していると考えた方が良いのではないかと思います。



 ここまで幼児・児童虐待についての概要を説明してきましたが、あからさまな虐待の場合は、 子どもにとってはナチスの強制収容所とまで酷くは言わないにしても(場合によっては言い切れる状況も存在する可能性がありますが)、過酷で辛い状態だと容易に想像出来るのではないかと思います。
 この状況下で育った人達を、「サバイバー(生き抜いた人達)」と呼ぶ場合もあります。

 更に、この状態とは対照的に見えて一見過保護と呼ばれる親子関係でも、 子どものありのままの欲求や感情を無視して親の意向を優先させるという、親に子どもを従属させているような関係が往々にして見られます。
 これを奴隷関係に例えて「マイルドな情緒的虐待」と呼べるのではないかと考えられます。

 この虐待を受けている 子ども自身も「虐待されている」という自覚よりは反対に、過干渉という状態を「愛されている」と意識してしまう為に、自身のトラウマの自覚がより困難になっているのではないかと思われます。



 もっとも身近で心を許している養育者や、更に日々生活している集団の人々に、体や心を傷つけられるという事は「深く激しい心の傷(心的外傷=トラウマ)」に十分なりえると言う事を、第2章で説明しました。

 幼児・児童虐待という状態は、それが積極的な虐待であれ、与える側と受ける側が自覚しにくい「マイルドな虐待」であれ、それを受けた 子どもに対して「歪んだ対人関係の基礎」を学習させるという点で後々に深刻な影響を与えます。

 ここでは体と心に傷を与える在り方を、児童虐待を中心に詳しく説明した訳ですが、更に虐待を与える大人も、 子どもの頃に同じ様にトラウマを負わされていたという事が、よく言われています

 このような事から、その人が受けてきたトラウマに応じてマイルドなものからハードなものまでの様々な虐待行為を、過去に学んだ「歪んだ対人関係」の反復として、攻撃しても安全な子どもという弱者に向けて無意識的に発散しているのではないか?という見方ができます(更には人種差別等の差別意識の源として考える事ができるかもしれません)。

 その見方から、境界例(ボーダーライン)である・又はその傾向があって心が不安定な養育者が虐待行為をしてしまっているのだという視点も必要でしょう。
 これが、「ボーダーラインの子はボーダーラインの親がつくる」と専門家に言われる由縁ではないかと思われます。

 これは「世代間伝達」とも呼べて、その家族が抱えている苦悩を日々の関係で 子どもに伝えていると言えます。これは誰かが断ち切らないと、その苦悩をまた次の世代の 子どもに受け渡してしまうでしょう。いつかは誰かが、この伝達を断ち切らなければなりません。



 しかしそうではなく、 子どもを育てるという事は、一般的にとても大変な事なのだ、という意見もあると思います。

  子どもという他人を育てるのですからストレスが溜まるのも当然で、養育者も1人の人間ですから、気分にむらがあって時にはきつい事を 子どもにする事があるでしょう。

 しかし、その後に「気持ちの通いあう心の触れあい」という相互交流的な暖かいフォローがあるのではないかと思うのですが、皆さんはどう思われるでしょうか。

 それらがない場合には程度の差があれ、それは虐待と呼べるのではないかと、私は思います。


「性的虐待」という、幼児・児童虐待の中でも国際的な社会的問題にもなっているこの重要なテーマを深く掘り下げるには、こちらのサイトを読む事をお勧めします。
小児性愛と子供への性暴力について考えるサイト


『 子どもの愛し方がわからない親たち』 斎藤学/著  講談社 ISBN4-06-206144-9
『 子どものトラウマ』 西澤哲/著 講談社現代新書 講談社 ISBN4-06-149376-0
『白雪姫コンプレックス』 白雪姫の母の物語でもあればコロシヤ・マザーとコロサレヤ・チャイルドの物語でもあるもの
                    佐藤紀子/著  金子書房
ISBN4760825649
『インナーチャイルド 本当のあなたを取り戻す方法』
     ジョン・ブラッドショー/著 新里里春/監修  NHK出版
ISBN4-14-080082-8
『imago 特集:ターミナルケア』 1996年1月号 Vol.7-10 青土社
  P.230:父親から娘への性的暴力 ジュディス.ハーマン/著
絶版
『心的外傷と回復<増補版>』
      ジュディス.L.ハーマン/著 中井久夫/訳  みすず書房
ISBN4-622-04113-8
*直接は児童虐待の事を述べていないのですが、
 母親と男児の親子関係(母子密着)について考える時に参考になる視点として、次の著書が参考になると思います。
『愛と心理療法』 M・スコット・ペック/著
                氏原寛・矢野隆子/訳  創元社
ISBN4-422-11083-7

サーチ:
Amazon.co.jpアソシエイト