小説家の太宰治が、生前このような夢を語っていたといいます。
暗い夜の海で1人で泳いでいた
岸に向かって必至に助かろうと近づくと
灯台の光が見えたので、そこに向かってけんめいに泳ぎ
やっとその灯台にたどり着く
そして灯台守の家の中を窓からそっと見ると、一家が食事をしていて
一家団らんの楽しい一時を過ごしていた
それを見た時
ああ、自分は駄目だ
と思った
自分はどうしてもそのような雰囲気に馴染めない人間
見捨てられている人間
だと気づき
行くあてもなく再びそっとその灯台を離れた・・・
この夢は、人とつながれない孤独を感じさせる悲しい夢です。
そしてこの夢からは、自分は人と違う世界に住んでいて、他人とは相交わる事ができないのだという絶望さえ感じられます。
心の不安定な人々の心の風景を、この太宰の夢が上手く語っているでしょう。
太宰が最終的に自殺を選んだという、その辛さとは一体どれほど苦しいものなのでしょうか?
心の奥底に抱いている
”見捨てられている人間”
という感覚。
その辛さゆえに、愛情を得ようとする死にものぐるいにも似た行動。
しかしその人を信じて安堵する事ができない...
周りの人々は、その感情の揺れ動きに訳も分からずに引きずり回されて傷ついてゆき、次第に彼らを憎むようになります。
彼らはその兆候を敏感に察知して
「見捨てられてしまう恐怖」
を抱き、周囲の人々にしがみつくか反対に突き放すかして、荒れた海のように不安定な感情を鎮めようと必至にあがきます。
こうして当人と、関わった人々は共に傷ついてしまうという悲劇が、何度も何度もくり返されてゆきます。
なぜ彼らはそのような態度をとらざるを得ないのか?
私はそれを、
「子ども時代に受けた深く激しい心の傷(トラウマ=心的外傷)」
という視点から説明しようと思います。
第1章
では、もっとも心の不安定な状態として代表的な診断名である
境界性パーソナリティー障害(BPD)
の人達の過酷で辛い心の不安定な状態を解説し、このパーソナリティ障害を理解の手がかりとして、もっと幅の広い心の不安定な状態としての
境界例(ボーダーライン)
という疾患概念まで話題を広げて述べようと思います。
第2章
では、普通の人々も陥る可能性がある
(心的)外傷後ストレス障害(=PTSD)
の解説をし、人が激しく心の傷を受けた後の過酷な状態を説明しながら、この障害を考慮に入れた視点でトラウマを診る事の有効性を述べようと思います。
第3章
では、トラウマを多分に子どもに与える可能性が高い
幼児・児童虐待
について解説し、
ハードで過酷な状態から広い意味での「マイルドな虐待」まで
の幅の広い視点で虐待を述べようと思います。
第4章
では、E・エリクソンとM・マーラーという精神分析学では有名な2人の専門家が提唱した
人の発達段階の理論
を取り上げて、乳・幼児期の大切さとかけがえのなさを述べようと思います。
最後の
第5章
では、とてもまとめきれてはいませんが、不安定な心からの回復の模索を簡単に述べてみようと思います。
『ボーダーラインの心の病理』 町沢静夫/著 創元社
ISBN
4-422111396
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