長期反復性(心的)外傷症候群(草稿-非公式:01'0/18)

※注意:記述されている単語や文体は、主に専門用語を使うなど学術的になっており、一般の方には難しいと思われます。
(いくつかの修正作業:03'08/07)


 1・前提 -「外傷スペクトル」の仮定 -
   一過性の(陰性・陽性)外傷から、突発的な単一の外傷体験、PTSD(DSM-IV)、極限状態の長期反復性(慢性)外傷までを包括する「外傷症候群スペクトル」として定義する。
   「長期反復性(心的)外傷症候群」は「外傷スペクトル」上の"長期反復性に由来する多彩な外傷病態"として見いだされる「症候群」と位置づける(=重傷の極側への位置づけ)。

 2・外傷概念の2分類化 -『外傷』を『現象的外傷行為』と『精神内界的外傷』の異なる「2つの外傷概念」に分離する-
  「外傷」を客観的に考察する為、外部から与えられる『現象的外傷行為』、それを被って引き起こされる被害者の『精神内界的外傷』の2つに分離して論ずる。
  この”2つに「外傷」を分離”する事により、外傷行為を受けた者が必ず外傷行為由来の病態を抱える訳ではない事を指摘したい

  a・「現象的外傷行為」= 外部から与えられる外傷(全てに共通するのは精神的外傷を与えかねないものである)
   ・虐待・攻撃(行動的、言語的・身体的・性的)= 養育・囚人等の上下関係由来の関係からを「虐待(Abues)」、平等関係である対人関係からを「攻撃(attack)」とする
    1.positive abues/attack(積極的虐待・攻撃)
    2.negative abuse/attack(主体性を奪い損なわせる行為全般)
   ・放棄(養育放棄・放置)・無視
    1.身体的な放棄(physical neglect)
    2.情緒的な放棄(emotional neglect)
   ・支持的関係の欠如・喪失・孤立化
    1.養育者との離別・喪失
    2.支持的人間関係の撤退・喪失
    3.孤立化

  b・「精神内界的外傷」= 現象的外傷を与えられた人間が実際に被った外傷
   ・陽性外傷(positive trauma)= 主に「虐待・攻撃」行為によって受けた外傷
   ・陰性外傷(negative trauma)= 「精神的外傷」を与える状況全般(虐待・攻撃・放棄・支持的関係の欠如)によって生じた外傷
    *1.「陽性外傷(positive trauma)」が認められる場合「陰性外傷(negative trauma)」が対になっていると考えるべきであろう
    *2.「陰性外傷(negative trauma)」には「自己否定意識」の発生とそれへの強度の固着が重要な問題となろう
    *3.これらの外傷の発生は、受ける側の素質(感受性の強さ等)、過去の外傷体験も重要な要素となる
    *4.そのため、病態、症状、精神療法の過程は、非常にユニークな個別性が見いだされる=症候群

 3・「現象的外傷行為」には以下の状況が見いだせる
  a・監禁状態
    ・捕虜・奴隷・政治犯・イデオロギーによる被拘束者が被る、刑務所・収容所・強制収容所・絶滅収容所での生活
    ・犯罪で被る、人質・監禁・性的搾取での生活
    ・狂信的なカルト宗教団体等による幽閉生活
  b・家庭内拘束状態
    ・家庭内による「虐待・放棄」行為
     (米国は顕在的であり、日本は主に潜在的・隠蔽的・内向的な状態として文化的な形態の違いを見いだす事も必要ではないか?)
  c・社会環境的拘束状態
    ・居住環境・勤務先・学校内等での、言語的・身体的・性的「虐待・攻撃」、無視・無関心、孤立化

   *これらの状況下(大抵は複数の要因が絡まり合う)で反復的に曝されている(いた)事

 4・「現象的外傷行為」には、次の3つの形態が見いだせる
  1)・乳幼児期・幼児期・児童期から「受傷環境」に身を置いていた場合(以下、4-1と示す)
  2)・成人後に「受傷環境」に身を置かれた場合(以下、4-2と示す)
  3)・1)の「受傷環境」を経て成人した人物が、その後に 2)の「受傷環境」に曝された場合(以下、4-3と示す)


 5・「現象的外傷行為」が及ぼす各成長段階においてのパーソナリティの破損性と各種精神障害の発現の可能性

  a・乳幼児〜思春期の期間(4-1)に受けていた場合、何歳からどの位、どの程度曝されていたか、支持的等の人間関係の有無により、多彩な病態・症状が形成される可能性がある
   ・成人後の受傷よりも、パーソナリティの発達・形成に対して極めて破壊的な威力を発揮する事が多い
   ・精神分析的視点から、乳幼児期から思春期においてはM.マーラーの発達段階から導き出される各段階での発達の必然的未到達・エリクソンの発達段階の段階的獲得の失敗→成人後の精神内界の欠損に至る(自立不可能)--を生じさせる可能性が高い
  b・青年期以降の受傷(4-2)の場合、乳幼児〜思春期の期間の場合とは違った病態・症状が形成されると思われるが、受傷した個人の過去の「精神内界的外傷」(4-3)により、多彩でユニークな病態・症状が形成される可能性がある。

 6・「精神内界的外傷」の発生による多彩な精神障害の症状の発現やパーソナリティの破損・欠損・歪み
  -「現象的外傷行為」により「精神内界的外傷」を引き起こされた個人は、次の病態・症状を多彩に形成する

  a・発達阻害による成長の失敗とそれによって引き起こされる病理からくる多彩な精神障害の形成と発現(4-1)
   境界例(O.カーンバーグの「境界パーソナリティー構造(Borderline Personality Organization = BPO)」を含む)・病的自己愛(H.コフート「自己心理学派」)、等を病理として発達させやすく、簡潔には以下の病態が認められる
   ・現在の診断名としての「境界性パーソナリティ障害(BPD)」「自己愛性パーソナリティ障害(NPD)」等の病態と発症
   ・「解離性障害」と「解離性同一性障害(DID)=(MPD※DSM-III-Rまでの診断名)」等のより重篤な病態の発症
   ・身体化障害などの不明疼痛など心身症的症状
   ・まだ未確認のもの
  *これらへの理解として、これまで研究・治療に取り組まれてきた「境界例」「自己愛パーソナリティ」「多重人格性障害(MPD=DID)」等が、「コインの裏と表」の関係の様に密接に「精神内界的外傷」に結びついていると考えるのが妥当である。

  b・成人期に受けた場合の多彩な精神障害の症状の発現(4-2)
   成人期の場合、(単発性)PTSD(DSM-IV)の病態の発現はもちろんの事、中長期の反復的な呵責な攻撃により、防衛機制が破壊されて自力では回復が不可能な事が少なくないとみるべきであろう。
  ・「解離性障害」としての「解離」の発達(幼児・児童期の場合と同じ質のもの)
  ・「自己」の喪失(変えられた・失ってしまった・等の根元的な人間存在の喪失)


 ●この概念の構築の目標の一つは、この概念からあらためて単発性外傷(主に不安障害の診断項目「PTSD」- DSM-IV -)やその周辺の診断項目と既に提出されている概念の包括(複雑性PTSD-J.L.Herman、外傷スペクトル-van.der.Kolk)、診断が下されないが外傷による心の受傷の状態を考察し直す為の概念の提示である。
 二つ目は、これまで様々な概念的変遷を辿ってきた「境界例概念」への的確な理解を助長する事である。
 三つ目は、これまでの多くの精神分析的概念(力動精神モデル)に、ジャネの解離の概念を整合的に組み込む試みである。
 四つ目に、治療現場や現実に悩み苦しんでいる人々に、有益な指標を指し示す事である。

 重要補足:「診断名」と「治療過程」とは、治療現場では分けた方が良い = 回復の過程では特に重要であり、少なくともベテラン精神科医数名はその様にしていると思われる




●基礎文献・参考文献●
『心的外傷と回復<増補版>』
      ジュディス.L.ハーマン/著 中井久夫/訳  みすず書房
ISBN4-622-04113-8
『外傷性精神障害』 岡野憲一郎/著  岩崎学術出版社 ISBN4-7533-9512-X
『imago 特集:心の傷とは何か』 1994年7月号 Vol.5-8  青土社
絶版
『imago 特集:狂喜と妄想』   1995年9月号 Vol.6-10  青土社
  P.198:自己破壊的行動の子供時代の起源 B.A.ファンデア.コルク/著
絶版
『imago 特集:人の意識の誕生』 1996年1月号 Vol.7-1  青土社
  P.248:複雑型PTSD J.L.ハーマン/著
絶版
『imago 特集:ニュー・セラピー』1996年8月号 Vol.7-9  青土社
  P.176:トラウマの反復強迫 B.A.ファン.デア.コルク/著
絶版
『多重人格障害』 F.パトナム・他/編 笠原敏雄/訳  春秋社 ISBN4-393-36042-7
『霧と夜』ドイツ強制収容所の体験記録
        V.E.フランクル/著 霜山徳爾/訳  みすず書房
ISBN4-622-00601-4
『それでも人生にイエスと言う』
    V.E.フランクル/著 山田邦男・松井美佳/訳  春秋社
ISBN4-393-36360-4
『宿命を超えて、自己を超えて』 V.E.フランクル(聞き手/F.クロイツァ)
                 山田邦男・松井美佳/訳  春秋社
ISBN4-393-36416-3
『生き抜く力』
   ジュリアス・シーガル/著 小此木啓吾/訳  フォー・ユー
ISBN4-89376-015-7
『トラウマ-「心の後遺症」を治す』
   ディビッド・マス/著 村山寿美子/訳 大野裕/監修  講談社
ISBN4-06-207778-7
『心的外傷の再発見』
    J.M.グッドウィン/編 市田勝・成田善弘/訳  岩崎学術出版社
ISBN4-7533-9712-2
『DSM-IV 精神疾患の分類と診断の手引』 
          訳/高橋三郎・大野裕・染矢俊幸  医学書院
(Quick Reference to the DIAGNOSTIC CRITERIA FROM DSM-VI
               AMERICAN PSYCHIATRIC ASSOCIATION)
ISBN4-260-11793-9
『自己愛と境界例』
  J・F・マスターソン/著 富田幸佑・尾崎新/著  星和書店
ISBN4-7911-0202-9
『青年期境界例の精神療法』
    J・F・マスターソン/著 作田勉・他/訳  星和書店
ISBN4-7911-0072-7
『境界パーソナリティ障害 その臨床病理と治療』
    J・G・ガンダーソン/著 松本雅彦・他/訳  岩崎学術出版社
ISBN:無し
『imago 特集:境界例』1990年10月号 Vol.1-10  青土社 絶版
『精神医学レビューNo.20 境界パーソナリティ障害(BPD)』
          小此木啓吾・大野裕/編  ライフ・サイエンス 
ISBN4-89801-129-2
『正常と異常のはざま』 森省二/著 講談社現代新書   講談社  ISBN4-06-148945-3
『青年期境界例』 成田善弘/著  金剛出版
ISBN4-7724-0306-X
『境界例とその周辺』 悳智彦・衣笠隆幸・伊藤洸/著  金剛出版
ISBN4-7724-0501-1
『こころの科学36 特別企画=境界例』
              河合隼雄・成田善弘/編  日本評論社
ISBN:無し
『図説 臨床精神分析学』 前田重治/著 誠信書房 ISBN4-414-40144-5
『モラトリアム人間の時代』 小此木啓吾/著  中央公論社 ISBN:無し
『自己愛人間 現代ナルシシズム論』 小此木啓吾/著  朝日出版社
ISBN:無し
『シゾイド人間  内なる母子関係をさぐる』 小此木啓吾/著  朝日出版社 ISBN:無し
あなたの身近な「困った人たち」の精神分析』 小此木啓吾/著 大和書房 ISBN4-479-79003-9
『エリクソンは語る -アイデンティティの心理学- 』 
     R・I・エヴァンズ/著 岡堂哲雄・中園正身/訳  新曜社
不明
ボウルビィとアタッチメント理論』
      J.ホームズ/著 黒田実郎・黒田聖一/訳  岩崎学術出版社
ISBN4-7533-9612-6

●基礎講演●
1997/10/05「児童虐待とその心的後遺症」
  J.L.ハーマン M.D・V.ヴァン.デア.コーク M.D


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