2005/05/04
『トリスタンとイゾルデ』セラーズ新演出&サロネン/バスチーユ

RICHARD WAGNER
Tristan und Isolde
Opera en Trois Actes
LIVRET DU COMPOSITEUR

DIRECTION MUSICALE Esa-Pekka Salonen
MUSE EN SCENE Peter Sellars
VIDEO Bill Viola*
COSTUMES Martin Pakledinaz
ECLAIRAGES James F. Ingalls
CHEF DES CHOEURS Peter Burian
PRODUCTEUR EXECUTIF (VIDEO) Kira Perov
DIRECTEUR DE LA PHOTOGRAPHIE (VIDEO) Harry Dawson
MONTAGE / MIXAGE / VIDEO DIRECT Alex Maclnnis

Waltraud Meier Isolde
Yvonne Naef* Brangaene
David Bizic Ein Steuermann
Ben Heppner Tristan
Alexander Marco-Buhrester* Melot
Jukka Rasilainen Kurwenal
Franz-Josef Selig koenig Marke
Toby Spence Ein Hirt / ein junger Seemann
ORCHESTRE ET CHOEURS DE L'OPERA NATIONAL DE PARIS

*Debuts a l'Opera national de Paris

OPERA BASTILLE 4 MAI 2005
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今日はパリ・バスチーユにて「トリスタンとイゾルデ」を見た。ペーター・セラーズ新演出、エサ・ペッカ・サロネン指揮によるプロダクションは異常な人気の為、バスチーユ公演としては珍しく劇場オンライン発売開始の段階で完売に近い状況であった。よって、今回はfnacオンラインでゲットしたが、席は二階バルコンのとても良いポジションだった。

さてセラーズの演出は、2003年3月の秋山和慶&東響定期「エル・ニーニョ」でもビデオ映像が最大限駆使されたが、今回のトリスタンもその趣向が取られる。ビル・ビオラによる極めて大規模な形で映像が用いられており、ステージの背面に矩形の巨大映像として映し出された。ちなみに1幕、2幕は横長スクリーンとして、3幕では縦長スクリーンとなっていた。歌手達はステージ床に描かれた四角いエリアで静止に近い状態で演技と歌を展開する。このコンチェルタンテといっても良いシンプルな演出は象徴的であり、もはや大規模なステージセットなどは必要とはせず、変幻自在する映像で想像力を掻き立てる。

第1幕の冒頭ではモノトーンで「海」が映し出され、風に揺らぐ波、海岸線の情景が音楽とマッチした展開となる。映像は蝋燭が赤く灯されている場面に変化し、さらに2つの額縁が登場する。左側にイゾルデ、右側をトリスタンを意図している訳だが、左側に一人の女性と付き人一人、右側に一人の男性と付き人一人が対照的に映し出されるのは、イゾルデ、ブランゲーネ、トリスタン、クルヴェナールを象徴している。イゾルデとトリスタンに対応した男女はゆっくりと衣服を脱ぎ去り全裸となってしまう。さらに付き人から水瓶から水を浴びせてもらうシーンへ進行。アダムとイブを連想させる映像であるが、これと同時に、ステージではワルトラウテ・マイヤーとベン・ヘップナーが素晴らしい歌を聞かせ続ける。サロネンの醸し出すアンサンブルも透明で見事に鳴り響いて行く。斯くのように視点が歌手とビデオ映像の間を行き来することとなるが、楽劇の進行と映像がきわめて魅力的に交差しているのが分かる。

第2幕では森の情景が印象的で、これがまた幻想と神秘を醸し出す。角笛は劇場の2階観客席の方に設置され、極めて立体的に響き渡る。イゾルデがトリスタンの到来を待つまでに燃え上がる愛の心理は炎の映像として熱く燃え上がっている。夜の場面の松明の光など、適宜場面に対応した映像が極自然とマッチしており、ワーグナーの音楽と相乗効果をもたらしている。

第3幕はでは縦長スクリーン一杯に映し出された荒涼とした海に灯火を掲げた船が浮かんでいる。イングリッシュホルンのもの悲しい調べは野原の風に揺れ動く草木と呼応しあい、映像と音楽がドラマの心境を語りかけてくる。そして沫が上昇する海中が映し出される。また溺れている男性の顔が映し出されるシーンは瀕死のトリスタンを思わせる。またイゾルデの到来を予告する陽炎のように揺れ動くイゾルデの映像も効果的だった。このような映像展開とともに3幕もイゾルデの愛の死を持って感動の極致となった。聴き終えて、歌手達と演奏が実に見事であったことを改めて実感した。18時開演で途中、45分と30分の休憩を入れて23時半終演は時間を忘れてしまう充実度だった。



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